最高裁判所第二小法廷 昭和63年(あ)103号 決定 1988年10月28日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反の主張であり、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ、本件公訴の適否について検討すると、記録によれば、(1) 岡山県警察本部長は、被告人が安全運転義務違反を行い、これにより軽傷交通事故を起こしたと認定して、その累積点数に基づき被告人を免許停止処分にしたこと、(2) 被告人は、被害者らには傷害が発生しておらず、軽傷交通事故を起こしていないから、その累積点数は処分基準以下となるので、右免許停止処分は違法であるとして、同県公安委員会に対して審査請求をしたが、請求棄却の裁決を受け、出訴期間内に取消訴訟を提起しなかったこと、(3) 本件違反行為は、最高速度を二〇キロメートル毎時超えるもので、反則行為(道路交通法一二五条一項、昭和六一年法律第六三号による改正前の別表参照)に当たるが、被告人には、過去一年以内に右免許停止処分の前歴があったため(同改正前の同条二項二号参照)、反則者に当たらないとして、本件公訴が提起されたこと、(4) その後右交通事故に関する業務上過失傷害被告事件において、傷害の事実の証明がないとして、右訴因については無罪とされ、予備的訴因の安全運転義務違反の限度で有罪とされ、右判決が確定したこと、(5) 被告人が本件について控訴を申し立てた後、同県警察本部に対する同人の申し出により、警察庁情報処理センターに保管されている被処分者の運転ファイルから右免許停止処分の記事が抹消されたことが認められる。このうち、(5)の免許停止処分の記事抹消は、その理由、手続、効果等からみて、右処分の職権取消とは認められない。また、(1)の免許停止処分の当時、処分行政庁は、相当な根拠のある関係資料に基づき、被害者らが傷害を負ったと認めたのであるから、その後(4)のように刑事裁判において傷害の事実の証明がないとして、被告人が無罪とされたからといって、右処分が無効となるものではない。そうすると、本件免許停止処分は、無効ではなく、かつ、権限のある行政庁又は裁判所により取り消されてもいないから、被告人を反則者に当たらないと認めてなされた本件公訴の提起は、適法である。
よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官島谷六郎 裁判官牧圭次 裁判官藤島昭 裁判官香川保一 裁判官奥野久之)